vol.8 癖があるほど、なお愛し
今までどれほどの人の前で教壇にたっただろう。
教える仕事をはじめてから、
かれこれ37年ほどの月日がたち、
講演だと多いときは200名近く、
教室だと10名から30名ほどの人の前で、
美容のノウハウを伝授してきた。
しっかり数えたことはなかったが、
おそらく優に、
一万人は超えるだろう。
大人の女性や社会人が対象の場合もあるが、
その半分は18~19歳の大学生や専門学校生。
そんななかでも、今でも思い出に残るのは、
癖の強い生徒ばかり。
少々問題があったり、反抗的だったり、
強がっている生徒にばかり、
なぜだか妙に惹かれる自分がいて、
金八先生のようにはいかないが、
「必ずや、授業に興味をもたせてやるぞ~。」と、
毎回、必死に挑んでいた。
初回の授業では、
「どうしてこの学校に来たのか」という動機を尋ねるのが十八番だが、
その生徒は、
まったくやる気が感じられない態度全開で、
「阪急電車にのってきましたーーーーー。」
と太々しく言い放った。
「なかなかウイットに富んだ事、
言うやんか。
〇〇さんはシャイな人なんやね、
可愛いね。」
と返すと、
その生徒は不意をつかれたように、
ちょっとうつむいて、はにかんだ。
18歳だった彼女も、今は48歳の十分に大人の女性。
もう何十年も会っていないが、
SNSを通して送ってくるメッセージは、
今でもあの時のシャイさがじんわりとにじんでいて、
私にとっては、
やっぱり、
可愛い人のままである。