vol.4 マジック鱗のへび女
「うぎゃー!」
走って逃げようとする細い手首を、握りしめて離さない。
思う存分泣かせてから、やっと手首を開放すると、一目散に家に走る幼い妹。
追いかけてたどり着くと、決まって父から大叱責をうける。
実家のすぐ横には、小さい山といってもよいほどの大きな公園があり、
毎日のように遊びに出かけた。
ブランコやすべり台だけでは物足りず、新しい遊びを発掘せねばと、
少し薄暗い道の脇で、低い声でこう脅かす。
「おねえちゃんは、ホンマはへび女やねんでぇ~。」
袖をまくり、
腕にはあらかじめ仕込んでおいた鱗の落書き。
なんともしょうもない遊びであったが、小さい妹には、効果てきめん。
いつもの大叱責をうけながらも、何回かは、しつこく繰り返した覚えがある。
あれから数十年、
今、妹は弊社の経理すべてを担い、なくてはならない存在である。
私が独立してからずっと、縁の下の力持ちとして、
最大に尽力してくれている。
もしも今、妹のサポートがなくなれば、
今度はマジック鱗のへび女が、途方に暮れて撃沈し、
「うぎゃー!」と叫ぶ番である。